浴槽の夜 天井から落ちる紐を引っ張るとお部屋が明るくなるのですが、お風呂の浴槽だけはずっと真っ黒なままです。それは、窓辺から入った夜が鯉のようにゆらゆら泳いでいるからなのです。いうなら不法侵入ですのでお巡りさんを呼んでもよいのですが、夜があまりに楽しそうなので毒気を抜かれて、そのまま泳がせることにしました。そんなに楽しいのか、あなたは毎日大きな海に泳いでいるだろうに。と夜に問いますと、夜は何をいっているんだという顔をして、海は魚の、海草の、様々なものたちの住んでいる家なのだ。人様の家に勝手に映り混んで、君は楽しめるのかい。と物知り顔で言いました。かちんときて、ここは僕の家じゃないですか、といえば、夜は恥ずかしそうに逃げ出して、そっそっと昇っていってしまいました。ようやくお風呂に、朝が来るようです。 [0回]PR