中途半晒す スマホでかいてたんですがつまった上邪魔になったので。腐注意僕には三つ下のおとうとがいます。何故弟でも義弟でもなくおとうととなるかというと、弟でも義弟でもないからです。おとうとは名を尚(僕は更、僕の実父が殊です。)といいます。彼の母親は父の初恋のひとでした。彼女は尚を産んで三年で亡くなり、尚の実父は生死不明の行方不明という有り様で、親類もなく、このままでは尚は孤児、私生児として生きていくしかないというときに、父が彼をうちに置くことにしたということです。尚の母のお葬式の際、僕ははじめて彼を見ました。彼に会いました。彼は庭の草っぱらに埋もれて、ひとりぼっちですやすや眠っておりました。僕はそれを見てまず死体だと思い仰天し、父を呼びに行こうとしました。しかし、叶いませんでした。尚が眠ったまま僕のズボンの裾をぎゅっと死体のような指で握っていたのです。爪が食い込むぐらいの、強い力でした。それから、尚と僕はまるで兄弟のように育てられました。父はいわずもがな、母もおっとりとした人であり、また女の子のように可愛らしい顔立ちの尚をひょっとしたら実子の僕以上に可愛がっておりました。さて、僕は12、尚は9の夏だったでしょうか。それまで何の気なしにテレビドラマを(僕の膝の上で)見ていた尚がいきなり僕の首にその柔らかく白い指先を絡めてきました。もう少し力をいれれば首は絞まるでしょう。その日は父も母も用事ででかけていて、うちには僕ら二人しかいませんでした。尚は目の底に(いま思うと)年不相応の、妙に男臭いめらめらした何かを揺らめかせていました。ふと、まろい指が引っ込められました。父が帰ってきたのです。僕は安堵と同時に悔しさを感じました。それ以来、僕は尚の指先ばかりを見るようになりました。あのやわい、死体のような白い指で首を絞められたいと何度も思いました。先端がほんのりと色づいた指が、僕の喉をさ迷ったあげく中心を力の限り潰すという妄想を幾度も幾度もし、数え切れないほどの夢に見ました。うちには僕の部屋はなく、尚と共同で子供部屋を使用していました。ちいさな畳敷きの部屋で、僕らはいつも布団を引いて地べたに寝ており、僕は尚が寝たのを確認すると、自ら首を絞めるのが習慣になりました。最初は固く分厚い茶色いゆびで、次はタオルとビニールテープを組み合わせたもので。リボン、レース、テグス。色々なもので(時には近所の猫の尻尾など)絞めてみました。しかし、あの時の絶落の快楽は、どうしても見つけられませんでした。嗚呼、私は気違いになってしまったのでしょうか。ひねもすがら男に首を絞められる妄想ばかりをしています。しかして、おとうとに正面から「首を絞めてくれ」などと言い出すような勇気もないような、中途半端な厚顔無恥でした。三度年がすぎ、正月を迎えました。僕はまだあの呆れた妄想を続けていました。正月には家族四人で初詣に行くのが我が家の習慣でしたが、父は出張で、母は一昨年癌を煩い死んでしまっており、その日は二人だけで詣でました。御神籤を引きました。尚は大吉、僕は大凶でした。家に帰り、炬燵に潜り込んで冷えた体をぬくとめながら蜜柑なぞを尚の口に放り込んでやっていて、ふと、尚は何を願ったのだろうか。と気になりました。流石に首を絞めてくれとは言えませんが、その程度は聞くことも許される範囲でしょう。何の気なしに訪ねてみました。すぐに返事は返されました。「兄さんの変な病気が治りますように、って」息が止まりました。僕のやっていたおかしな行為は全て、三つ下の幼いおとうとに知られていたのです。気づかれていました。ばれていたのです。予想していなかった訳ではないけれど、想定していなかった答えが僕の血管に詰まりました。病気。そう、僕のあの汚らわしい妄想は妄想なんてもので無く、病気なのだ。逸らして瞑っていた目を抉じ開けられたような感覚を味わいました。僕は狼狽と混乱と羞恥の限りを味わい、その姿をじっと、尚は見ていました。 [0回]PR